2010年05月11日

なので

最近急に気になり出した。口語でも文語でも「なので」を接続詞として使う若者が増えた。うーむ。

いや,ひょっとしたら自分でも口語ではよく使っているかもしれない。「××の原理はこうこうです。なので,これを使う場合は〜」のように。そういえば,あのイチローがインタビューでよく使っていたような気もする。「なのに」「であるから」も同類。そういう意味では,文頭の「で,」も同類か。

しかしこれが文語になると違和感ありまくりである。ブログのような軽い文章ならまだしも,論文の下書きなどに登場されると。

本来は,文語ならば「したがって」「ゆえに」,口語でも「だから」などとすべきものだと思う。「名詞+なので」(授業なので)「形容動詞の連体形+なので」(きれいなので)は可。

それとも,いまや「なので」は単独の接続詞として認知されるようになったのかもしれない。ことばの変化について行けていないだけか?
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2008年01月08日

A HAPPY NEW YEAR

久しぶりの英語ネタ。

Xmas を X'mas と書くほど大きな間違いではないが,今年もたくさんの年賀状に "A HAPPY NEW YEAR" と書いてある。なぜ頭にわざわざ "A" を付けるのか不思議でならない。ネイティヴは決してこういう書き方はせず,単に "HAPPY NEW YEAR" と書くのである。この件,ずいぶん前に知人のアメリカ人に尋ねてみたところ「A が付いていても言いたいことは分かるけどちょっと変な感じ」とのこと。

もしも同様の流儀に従うならば,「誕生日おめでとう」は "A HAPPY BIRTHDAY" になってしまうし,「こんばんは」は "A GOOD EVENING" になってしまうが,そういう言い方しませんよね。

"Have a happy new year!"(よいお年を)という表現は,口語でも普通に行われるので,おそらくはそこから Have が欠落した状態が定着したものと思われるが,この国際化時代になかなか "A" が外れないのはなぜだろうか。

和製英語だと思っていればいいだけなのかも。
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2007年01月19日

漢字

知人に子供が産まれたので,何かお祝いをと,服やオモチャなどを買い求めて箱に詰める。ゆうパックで送ろうと郵便局へ。伝票に宛先住所などを書き込んだ後,「品名」欄。気が付いたらこう書いていた。

衣類・頑固

うーむ。「玩具」と書きたかったのに。
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2005年12月06日

言語獲得のはなし・その2

ちなみに,言語獲得のはなし(その1)。

ママとパパはよいとして,食べ物は「マンマ」,自動車は「ブーブー」,犬は「ワンワン」と,然るべき年齢になれば自動的に言うのだろうと思っていたのだが,そうでもないらしい。否,ないらしい,などと悠長なことを言っている場合ではなく,言語獲得に関して親の責任は重大である。

我が家はマンションの6階にあるので,ベランダ(現在もう1つの子育てが挙行されているベランダではなく表向きのベランダ)に出ると,下の道路を行き交う車がよく見える。それで,王子を抱いて外を見ながら「ほら,赤いブーブー来たよ。あ,こんどは白いブーブーだね。」などと懸命に話し掛けるのだが,動作物体のほうを指差すだけで,言語的反応はない。仕方なく,そのブーブーが視界から消えるときに「あ,行っちゃったね。」などと,無意識に言っていたらしい。

ある時,「あ,またブーブー来たよ,ほら。」と言ったら,それまでと同様に走る車を指差しながら追いかけた末,見えなくなると同時に,声になるかならないかのか細い声が王子の口から聞こえた。「イッチャッタ。」

ん? いま何て言った? 「イッチャッタ…」
これがおそらく,我が王子が最初に口にした「同音2回反復以外の複音節語」である。

そういえば,ドイツの知人から誕生祝いに茶色の犬のぬいぐるみを貰った。王子はこれが大のお気に入りで,よく抱いて連れてくるので,「ワンワンと遊んでるの?」などと話し掛けるが,これにも残念ながらまだ言語的な反応はない。仕方なく,その犬の胴体を掴み,顔を王子に向けて「わんわんわんわんわんわんわん」と連呼してみせる。するとキャッキャと大喜びする。あまりに喜ぶので,たびたび「わんわんわんわんわんわんわん」と,とても仕事場では出せないような奇声を発してみせていた。

ある時,王子が退屈そうだったので,件の犬を持ってきて渡してやったら,「ワンワンワンワンワンワンワン」と,正確に発声する。確かにいつも「ワン」は7回だったね。「ワンワンワンワンワンワンワン。」

幼稚園の教室で,先生が犬の絵を見せて「はーい,みんなこれは何かな?」

全員「ワンワン」
我が家の王子「ワンワンワンワンワンワンワン」

などということにならないかちょっと心配。幼稚園じゃもう「ワンワン」なんて言わないだろうけど。
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2005年11月13日

オレとラテの違い

だいたい知ってはいたが,某コーヒーショップに非常に簡潔な説明があったのでメモ。

カフェ・オ・レは,フランス語で,ドリップ抽出したコーヒーに温めたミルクを1対1の割合で加えたもの。

カフェ・ラテは,イタリア語で,エスプレッソ抽出したコーヒーにクリーム・スチーマで泡立てたミルクを7対3の割合で加えたもの。
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2005年08月29日

[仏語] カルフール

砲丸投げの玉を見て,まるで大砲の玉みたい,と言うような話。

本場の「カルフール」に行ったという話を以前に書いた。カルフールというのは,フランスでは有名なスーパーマーケットのチェーンで,至るところに巨大なスーパーを展開している。日本にも出店しており(厳密には現在は経営は他社に譲渡し,ブランド名称のみの出店らしいが),幕張にあるカルフールにはしばしば出かける。そういうこともあって,私にとっての「カルフール」は,言うまでもなくこのスーパーマーケットを指す固有名詞である。

フランス語では Carrefour と書く。私が住んでいる町の隣り町にもその Carrefour があり,幕張の店と同じシンボルマークの広告が町中にいくつも出ている。店も巨大だが広告も巨大である。ところが,その巨大広告とは別に,町の中でよくカルフールに出会う。フランスは,英国など他のヨーロッパの都市と同様,道路と道路が交差するところに「ラウンドアバウト(ロータリーとも言う)」が多く設置されており,その中央部分によく Carrefour と書かれているのである。

ラウンドアバウトについてはいろいろ書きたいことがあるのだが,ここでは本題ではないので省略して,だいたいの場合,その中央部分は小山のようになっているか花壇が作られたりしている。その付近に,通行する車からよく見えるように看板が立てられていることが多く,そこに Carrefour de 何とか,と書かれているのだ。

あのスーパーマーケットの Carrefour がこういうところにも広告を出しているのか,とまでは思わなかったが,どうして至るところにカルフールと書いてあるのだろう,と不思議に思って調べてみたら,Carrefour はフランス語で「交差点」のことなんですね。知らなかった。
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2005年08月25日

英語使い

勤務先の大学の近くにある Intermarche(インターマルシェ)というスーパーでの出来事。

買い物用のカゴを借りようとと,いわゆる「サービスカウンター」のようなところに近付いていったら,警備員と思しき黒人に声を掛けられた。フランス語はよく分からないのだが,これはあまりに見事な「定型」だったので難なく聞き取れた。

Monsieur, parlez-vous anglais? (英語話せますか?)

まるで NHK の「フランス語会話」に出てくるような文章である。ほとんど反射的に Oui. と答えたら,ホッとしたような顔をする。なぁんだ,フランスでも英語が話せるといいことあるんじゃん,と思いながら見ると,その警備員のそばには中年の女性が立っていて,どうもその女性のために英語のできる人を探していたらしい。

ちょっぴり得意になって,Can I help you? と言うと,女性もホッとしたように Oh, good, thank you, I'm looking for something. It is ... と一気にまくし立てる。その発音から明らかにアメリカ人である。親切に話を聞いてあげたところ,携帯式のガスコンロに取り付ける小型のボンベを探しているとのこと。うん,うん,とうなずいて,なるほど,小型のボンベね,じゃちょっとお店の人に聞いて…,というところまで来て初めて,自分もこの女性とまったく同じ立場だということに気づいた。

You know, I understand what you want. But the big problem is, I don't know the word "gas cylinder" in French!

調子に乗るもんじゃないね。
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[仏語] シ

英語で,Don't you 〜 のような形の疑問文(否定疑問文)は,我々日本人には厄介であるという話を拙著に書いた。日本語では,「××ではないの?」に対して「はい」と答えれば××ではないことを意味するが,英語で Don't you ×× ? に対して Yes. と答えると××であることを意味するからである。

さて,フランス語ではどうかというと,論理は英語と同じであるが,疑問文に対する答えには Oui(はい),Non(いいえ)以外に Si(ne 〜 pas に対して,〜でなくはない)という答えがある。ドイツ語でも Ja(はい),Nein(いいえ)に対して Doch という答えがあるのと同様である。

私の場合,英語の会話では相変わらずこの「否定疑問文への答え」での間違いをよく犯してしまう。You don't 〜,に対して No. と言ってしまってすぐに「あ,しまった」と気が付くようにはなったが,「この料理おいしくないですか?」と聞かれて「いや,おいしいよ」と言いたいのに No. と言ってしまうような状況では,すぐに訂正したとしても相手との関係は気まずくなる。これまでに何度 "No... I mean Yes!" (あるいはその逆)と言ったことか。

フランス語やドイツ語では否定疑問に対する別の答えがあるからといって,あまり状況は改善しない。むしろややこしくなるだけである。じっくり考える時間があればよいが,何か聞かれて答えなければならない状況では,Oui か Non のどちらを発するかで精一杯なのである。いったい Si や Doch を使う人々の頭はどうなってるのだろう?
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2005年08月23日

[仏語] ドンク

英語の therefore あるいは so である。donc と書く。「だから」とか「それでさ」とか「さて」のような場合に発せられるので,他の接続詞よりも強調されることが多く,耳に残る。

ところで,フランス語の発音ルールからすれば,後ろに母音が続く場合を除き,本来は最後の -c は発音しないはずである。つまり「ドン」になるはずである。しかるに,ほとんどの人は「ドンク」と言う。時には「ドンクー」と伸ばす。辞書にも,正式には「ドン」であるが話し言葉では「ドンク」が好まれる,などと書いてある。
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2005年08月19日

[仏語] サ・エ・サ

お店で買い物したりレストランでメニューを見ながら注文したりする場合,いちいち商品や料理の名前を言わずとも,「えーと,これと,これを,ください」と言えば簡単である。英語でも this one and this one と指差しながら買うことはよくある。もっとも,遠くにあるものを指して that one and that one ではうまく通じないかもしれぬが。

フランス語で「これとこれ」は "ça et ça" で「サ・エ・サ」と発音する。「これとこれとこれ」は「サ・エ・サ・エ・サ」だし,「これとこれとこれとこれとこれ」は「サ・エ・サ・エ・サ・エ・サ・エ・サ」である。って当たり前か。

ça は,どちらかというと話し言葉でよく用いられ,cela(それ)と ceci(これ)のいずれの代用にもなるので,英語の this one よりも少し広い感じで,少し遠くにあるものに対しても使える。

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2005年08月16日

[仏語] メルスィ

フランス語の /r/ は,英語の /r/ とは発音が異なる。日本語の「ら」行とももちろん異なる。ドイツ語の /r/ に少し近いが,ドイツ語ほど巻き舌の巻き方は鋭くない。いずれにせよ,練習しないとちゃんと発音するのは少々難しい。(ちなみに練習すればすぐにそれなりに発音できるようになる。)

最も重要なフランス語かと思われる Bonjour と Merci と Pardon のいずれにも,この難しい /r/ が含まれている。日本語的に「メルスィ」と喋ると少々本物とは違う。「ル」は巻き舌で,少し息が閉塞するような感じで発音する。極端に書けば「メゴスィ」のように聞こえる。ドイツ語で「なぜ?」を Warum?(ヴァルム)と言うが,いつ聞いても「ヴァゴム」と聞こえる。フランス語はそれほど顕著な巻き舌ではない。

丁寧に言うときは Merci beaucoup.(メルスィボークー)と言い,これもほんのちょっとでもフランス語の知識があれば誰でも知っているが,Bien を付けて Merci bien.(メルスィビァン)と言うこともある。英語の No, thank you. は,そのまま Non, merci. である。

Merci. に対して「どういたしまして」と言うには,Je vous en prie.(ジュヴザンプリ)でよいが,「どうってことないよ」という意味で De rien.(ドリャン)と言ったりもする。
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[仏語] ボンジュール

おそらくは最も有名なフランス語であろう。私も,12年前に渡仏したときにはボンジュールとメルシーとパルドンくらいしか知らなかった。

Bonjour. と書く。しまいの /r/ は,フランス語特有の巻き舌発音なので,はっきり「ル」とは聞こえない。聞いた感じは「ボンジュー」である。アクセントは通常「ジュー」に置かれるが,ときどき頭の「ボン」にアクセントを付ける人もいる。ちなみに Bon は英語の Good,Jour は Day である。(英語で言えば中学1年生程度の知識ですな。)

夕方6時すぎくらいになると,この挨拶は Bonsoir.(ボンソワール)に取って代わる。これも「ボンソワー」と聞こえる。Soir は英語の Evening である。
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2005年08月15日

[仏語] セトゥ

アメリカとフランスの微妙な文化の違いを示す面白い例。

スーパーのお惣菜売場などで,ショーケースの中の物を指して,これを何グラムくれ,などと買い物をすると,アメリカではほぼ必ずと言っていいほど,

Anything else?

と聞かれた。こちらは最初から他の物など買う気はないので,頼んだ物だけをくれればよいのだが,商売する側としては「他にも何かいかが?」と言いたいわけで,某ピザ屋にピザ1枚の宅配を頼むと,サラダはいかが? デザートはいかが? と聞いてくるようなものである。

フランスでも同様のことが起こるが,決まり文句は,

C'est tout? (セトゥ?)

であり,意味は「これで全部か」である。他の物を買うことをデフォルトにする(アメリカ)か,買わないことをデフォルトにする(フランス)かの違いはちょっと面白い。
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[仏語] ヴォワラ

何かを差し出すときに,英語では Here you are. とか Here it is. と言うが,それに相当することば。Voila と書く。単に「はい」「どうぞ」という意味もあり,La voila. と言うのが正確だが,La は省略して「ヴォワラ」と言う。

似た言葉に Voici(ヴォワシ)というのがあり,la が英語の that,ci が英語の this なので Voila よりも近くにある(「あれ」に対して「これ」)ものにはこちらのほうが妥当なのだが,頻度としては Voici も含めて Voila と言うことが多いようである。

お店で何か商品を探してもらったり,レストランなどで料理を注文したりしたときに,その商品や料理が届けられるときに Voila! と言われることが多い。ニュアンスは「どうぞ」だが,日本語の語呂から言えば「ほーら」に近い。「ほら」と「ヴォワラ」は似てなくもないな。もしかしたら語源だったりして。
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[仏語] ダッコ

英語でもそうだが,フランス語でも,語学書を開くとたとえば Je suis japonais. だとか Je m'appelle 〜. だとかが最初のほうに出ている。それはそれで大事なのだが,拙著でも触れたように,むしろ日常的によく耳にする「ちょっとした一言」のほうが重要な気がする。

これは私自身の場合だが,英語の語学力を10とするとフランス語に関してはまだ1以下と思われるので(ドイツ語で1くらい),英語と同じように基礎知識を披露する段階には至っていないし,フランス語を聞いても早口で喋られると何が何だかさっぱり分からないのだが,ことばというのは面白いもので,たびたび同じフレーズを聞いているといつの間にか覚えてしまう。

12年前に,数ヶ月間ひとりぼっちでフランス生活を送っていたときにも,あまりフランス語の勉強はしなかったが無意識にいろいろなフレーズを覚えてしまい,帰国直前にはそれなりに「カタコトの」会話が成り立つようになっていた,はずである。数年経ってすっかり忘れてしまった,と自分では思っていたのだが,今回再びフランスで生活を始めると,みるみる間に当時の記憶がどこかからよみがえり,かつて覚えたフレーズはだいたい聞くと分かるし,自分でも口にできてしまうのである。不思議である。

そういうわけで,「フランス語の基礎知識」には程遠いが,これから時々フランス語の話を書いてみることにする。

まずはじめは「ダッコ」でしょうか。本当にこの言葉はよく耳にする。正確には,

D'accord.

で,「分かりました」の意。「分かった?」と聞くのに語尾を上げても使える。フランス語の Accord とは英語の Accord と同じ「調和」という意味も持つが,この場合は「同意」「賛成」の意味である。英語の I see. や O.K. と同じ意味だから,よく聞くのも無理はない。
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2004年11月12日

言語獲得のはなし

学部3年の「ディジタル処理」という講義の中で音声処理に関する話を少しだけしている。もともと「音声処理」という名の講義が「ディジタル信号処理」と合併して「ディジタル処理」というなんとも不思議な名の授業に変わってしまったためだが,それはいいとして,信号処理と音声処理についてだいたい 7 対 3 程度の割合で講義をしている。例によって,学生に興味を持たせるための前段の話(中には「雑談」と呼ぶ者もいるが決して雑談ではない)をいろいろとするのだが,その中で比較的好評な(私が勝手に好評と思い込んでいる)話の1つに「ママとパパ」の話がある。

乳幼児が言語を獲得する際に最も初期に出現する単語は,万国共通「ママ」であり,それは周知の通り母親を指したり,若干変形を伴って食べ物を指したりする,という話である。母親や食べ物は赤ん坊にとって最も重要な対象物であるから,それらの呼称をいち早く獲得することはごく自然である。「ママ」の次あたりに出現するのは「パパ」であり,通常それは父親を指す。父親よりも母親のほうが先というのは,男としては幾らか悔しい気もするが,まぁこれはしょうがないだろう。

さて,興味深いのは,母親と父親がなぜたとえば「カカとトト」ではなく「ママとパパ」であるか,という点である。音声学をちょっとだけ研究すると,いや研究しなくても少しばかり考えればこの理由は明白であり,子音の中で /m/ と /p/ は極めて発音しやすい上,「口真似」しやすい音韻だからである。 /m/ と /p/ のいずれも口唇で調音される,すなわち「くちびる」で作られる音であり,他のたとえば /t/ や /k/ などのように歯の裏側や口の奥深くで作られる音より発音しやすいのである。したがって,一般に赤ん坊は,母親や父親の口を見て真似することで /m/ や /p/ の音を獲得し,「ママ」と「パパ」が他の単語よりも早期に出現するのである。

講義中の話はたいていここまでだが,いまの私にとっては「パパ」よりも「ママ」が先に出現する,というのが大問題である。明らかに赤ん坊は母親と接触する時間のほうが長いし,父親より母親のほうがプライオリティが高くなってしまうのは「やむを得ない」ので,百歩譲って「ママ」が先に出現するのは仕方ないとして,「ママ」の出現後どのくらい経ってから「パパ」が出現するのか。仮に何か月もかかってしまうようでは父親の威厳が保てまい。

…と考えた途端に作戦開始。いまのところ育児に関して私のほぼ唯一の日常的義務である「入浴」時間に,湯の中で愛息を膝に乗せ,目を合わせながら「パパ,パパ,パパ…」を際限なく繰り返す。努力の成果あって(努力しなくても普通そういうものです,などと言わぬように),月齢3か月を過ぎた頃から「あー,あー,うー,うー」なる声をよく出すようになってきた。この「あー,あー」というのはきっと「パーパー」と言おうとしているに違いない。

ところがまずいことに,程なくこの作戦をママに知られるところとなり,ママは日中の長い時間をかけて,パパが汗水垂らして働いているというのに,ぽかぽかの日だまりで「ママ,ママ,ママ…」とニコニコと際限なく繰り返しているらしい。これは致命的にまずい。音声学的に見ても明らかに「マ」より「パ」のほうが分が悪い。

こうして,「あー,あー」は「マーマー」なのか「パーパー」なのか定かでない日々が続いたのだが,ごく最近になって,この賢い息子はそのどちらでもない言葉を口にするようになった。

こいつ,ママでもパパでもなく自分の名前を呼んでいやがる。
posted by gecky at 00:00| 千葉 ☁| ことば | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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