たとえば,最近少々はまりかけている作曲家,フランツ・リストの超有名かつ超難曲に「ラ・カンパネッラ」というのがある。正確には「パガニーニによる大練習曲」の第3番。これを初めて練習したのはもう20年ほど前だが,未だに完璧に弾きこなすのには程遠く,なんとかすべての音符を叩くことができるかどうか,その主たる理由はこれだ。

2小節目の2〜4音目は,見ての通り2オクターヴ離れている。これを右手だけで高速で弾くわけだから,いくら手が大きくても(ちなみにリストの手はC音から1オクターヴ以上上のA音まで届いたらしい)かなりアクロバティックな指のジャンプを行わざるを得ない。
実は,上の部分は左手がおとなしいのでまだ易しい。曲が進むとたとえばここ:

2オクターヴに近いジャンプを両手で同時にやる必要がある。まぁここも練習を重ねればどうにか弾けるようにはなるのだが,音を外すリスクが高いところは,どうにかしてその危険性を少しでも小さくできないかと考える。その結果,たとえばこんな技を思い付く。
上の譜例の2小節目,赤い○を付けた右手の第2音(F#)は,同時に弾く左手のD#音に近い。したがって,F#を右手で弾かずに左手でD#と同時に弾けば,右手はD#→D#の1オクターヴ下降だけで済む。この曲に限らず,リストの楽譜と格闘しているとそういうケースがけっこう見つかり,実践してみるとそれなりに弾きやすい。
でもこういう「技」は,一般には「邪道」である。プロのピアニストは絶対にやらない。最近,DVDなどで演奏の指元が見られる映像が入手しやすくなったので,果たして同じようなことをしているピアニストはいないものかと注意して見ているのだが,いない。下手に逆の手を介入させると,音の大きさや音符のつながりのバランスが崩れ,ぎこちない響きになってしまうからだろう。オートマ車で,アクセルペダルを右足で,ブレーキペダルを左足で踏むようなものかもしれない。
ちなみに,この「ラ・カンパネッラ」という曲,聴くのと弾くのとではだいぶ印象が違う。そういう曲は他にも多いのではあるが,たとえばこの部分:

相当に難しそうに聞こえるのであるが,弾くのは意外に簡単である。逆に,ここなど:

は,さほど難しくなさそうに聞こえるのだが,実は難しい。ここも運指を少し工夫すると弾きやすくなるのだが,やはり邪道らしくそういう指示のされている楽譜は見たことがない。
というわけで,運指を研究すればするほど,作曲者すら意図しなかった(というか作曲者がヴィルトゥオーゾならば,そんな努力は不要か)弾き方が発見されて楽しい。こういうの,自動的に見つけて楽譜上にマークしていってくれるプログラムが作れないものかな,と思ったので忘れないうちに記録しておく。誰か卒論のテーマでやってくれないかな。
上から2つ目の部分は、まともに弾けた試しがありません(−−;)自分で弾いてて、あまりの下手さに爆笑しちゃうくらい。おっしゃるような運指も試してみようかな。
上から3段目は、おっしゃるとおり簡単ですね。難しそうに聞こえるから、弾いてて一番気持ちいい部分(笑)